>LIONTARI ILION>>獅子宮で朝食を 聖域の或る朝。 十二宮の階段を焦って駆け上がってゆく獅子の姿があった。 獅子宮で朝食を この日、アイオリアは自分のトレーニングを終えた後、訓練生たちの組み手の監督をしていた。 短期間で見違える程成長した彼らの姿が嬉しくて、つい指導に熱が入ってしまい、終了予定時間を遥かにオーバーしてしまった。 憧れの黄金聖闘士による指導を受けて、興奮覚めやらぬ訓練生たちに労いの言葉を残し、コロッセオから自宮へ急いでいるところだったのだ。 『今週はせっかくエアが居るっていうのに、つい訓練に夢中になってしまった…。 朝食も食べずに待っているかもしれない。急がねば』 獅子宮の敷地に飛び込んだところで、これから出かける風のエアに丁度出くわした。 「あ…;遅かったか………(がくっ)」 「あ、アイオリア様おはようございます!」 駆け寄って笑顔で挨拶するエア。いつもよりラフなカッコだ。 聖域に居る時の彼女は、文書館の古い資料の整理をしている。いつもは座り仕事なのだが、今日から文書類を陰干しするのだと言っていたから、その為なのだろう。 『力仕事など、力が有り余っている担当の聖闘士に任せておけばいいのに…』そんなことを考えていたアイオリアに対し、エアは済まなそうに声をかける。 「ゴメンナサイ。朝食、一足先に済ませてしまったんです。今日は、ちょっと早く来て欲しいって言われてて…」 「そうか…。俺も随分と遅くなってしまったからな…」 そうは言っても、一緒に食事をする機会を逃して、少々落ち込み気味の獅子。そんな彼を置いていくのを心苦しく思いながらも“夕方には終わるはずだから…”と、エアは文書館へ足を向けた。しかしアイオリアが彼女を呼び止める。 「待ってくれ、エア。朝のキスがまだだぞ」 「え、ココでですか…?///」 エアが育ったのは、挨拶としてキスを交わす文化圏ではない。ギリシアで生活するようになって数年、再び獅子宮で暮らす間柄になってからも、こうした恥じらいを見せるので、ついつい我が侭を言いたくなる獅子であった。 黄金聖闘士だけでなく兵士たちも利用するこの通路上では、誰がいつ通るか分からない。道から少し離れた所まで彼を引っぱって行って、そこに育つオリーブの木陰で“おはよう”のキスを交わす。 「…甘い香りがする」 「あ…さっきリップを塗ったから」 生成りのエプロンのポケットから、小さな緑色のケースを出して見せた。 「リトスがお土産に買って来てくれたんです。フルーツの香りのリップクリーム。文書館の中って乾燥してるから、唇がガサガサになっちゃって。すぐ使えるように持ち歩くことにしたんです」 ふと、いたずらっ子のように笑って蓋を開け、ケースを彼に近づけた。 「アイオリア様も使ってみます?」 ひと呼吸置いて獅子が尋ねる。 「どうやるんだ?」 「指に少し取って塗ってみて下さい。 ラインに沿って縦に擦り込むのがコツなんですよ」 彼が少量のクリームをすくい取ったのを確認すると、ケースをポケットにしまう。今度こそ出立しようとしたエアだが、再びアイオリアに捕まった。顎を片手で軽く持ち上げられる。獅子は彼女の唇に、クリームを塗り始めた。 「え…?」 「動かないで…」 ?マークを飛ばしながら、じっとしていたエアだが、彼の指が離れたので疑問をぶつけた。 「アイオリア様、ご自分に使うつもりじゃ…」 「塗るよ、これから」 そう言うが早いか、彼女の身体を幹にそっと押しつけ、深く口付けた。甘い香りとともに、柔らかい唇を存分に堪能する。 一方、エアは両手で彼を押し戻そうと試みるが、哀しいかな力不足で効果無し。 『こんな塗り方は反則〜!!』 ………と。 どげ〜ん! 「んがっ!!」 「デスマスク様…!? ///」 後頭部を押さえてうずくまるアイオリアに対し、蟹座の黄金聖闘士が言い放つ。 「早くエアを貸しやがれ!」 立ち上がり、猛然と抗議をする獅子座の黄金聖闘士。 「何を言う!エアは俺の…」 「黙れ!俺ァ、夕方からデートなんだよ。さっさと仕事終えて出かける為にも、こいつの指示が必要なんだ。他人様の恋路を邪魔する奴は、積尸気送りにしてやっからなっ!!」 「今日の担当はデスマスクだったのか…?」 「…そです」 「人選、誤ってないか?」 「持ち回りですから、私は何も言えません…;」 いつになく殺気立ってるデスマスクの剣幕に押されて、小声で囁きあう二人。 「喋ってる暇があったら、とっととついて来い!」 げしげしと、獅子宮を抜けて進むデスマスクの後を追い、十二宮の階段を上り始めるエア。心配そうに度々振り返る彼女にアイオリアは、手を挙げて応えるしかなかったという。 ちなみにエアが使っていたのは、キウイの香りのリップクリーム。 マタタビ科に属するこの植物の香りが「獅子ご乱心」の原因だったのかは定かではない。 作成日:060425 拍手頂けると嬉しいです お返事はGuest bookにて!
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