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>>星追い人





星追い人


獅子宮での誕生日の宴もたけなわ。未成年である女神が神殿に戻った後は、更に無礼講に拍車が掛かった様だ。

聖域に残っている黄金聖闘士と、彼等に付き従い、宴の手伝いも兼ねてやって来た従者達。大人数がひしめく獅子宮など、経験した事がないエアは、雰囲気にすっかり呑まれてしまっていた。


「何だか酔っちゃったみたい。少し風に当たって来るね」


隣で一緒に談笑していたリトスに、断りを入れる。心配して「ついて行く」と言われたが、「大丈夫だから」と微笑み、ひとり外へと出た。

昼間は焼けるような日射しのアテネの夏だが、高台に在る聖域を吹き抜ける夜風は、肌寒ささえ感じる。お陰で火照った皮膚が落ち着いていく。



灯りとして備え付けられた篝火。その光が届く範囲から外れると、一気に目に入る星の数が増えた。北から南へ、天頂を通って流れる天の川がはっきり分かる。

少しずつ増やしていった星座の知識。アイオリア達聖闘士が、星の宿命の下(もと)に在ると教えられて興味を持った。88星座にはまだまだ届かないが、北半球の星座なら、半分以上見分けがつく。

小学生の時に覚えた夏の大三角形を直ぐに見つけた。北の空の北斗七星は沈みかけ、カシオペア座のWがMに変わろうとしている。






「星を見てるのか?」


聞き慣れた声がして、エアは後ろを振り返る。そこにはアイオリアが立っていた。


「アイオリア様!主役が抜け出したりしてもイイんですか!?」

「彼奴ら酒癖が悪くて、ずっと絡まれ通しだったからな。
 リトス達がこれを手に、君を迎えに行けと言って来たので、渡りに船だったよ」


そう言って、手にしていたヒマティオンをエアの肩に掛けた。



聖域のみならず、黄金聖闘士達からも浮いていた、当時のアイオリア。同じ彼の口から、こんな言葉を聞こうとは…。目頭に熱いものを感じながら、エアは言う。


「皆さん、楽しんで下さってるんですね。良かった!」

「楽しみ過ぎだ。俺はいいオモチャだよ…」


疲れた様に言うアイオリアだったが、表情からしてまんざらでも無いのだろう。目が合うと、どちらともなく笑い出した。






今度は二人で空を見上げる。


「私、獅子座以外の星座も沢山覚えたんですよ。
 ほらあれ!氷河くんの守護星・白鳥座」

「獅子座の見分けもつかなかった獅子宮の従者としては、えらい進歩だな」

「もうっ/// アイオリア様の意地悪!!」


獅子宮に迎え入れられてから、最初のアイオリアの誕生日。ささやかな会の中で、獅子座はどれか?と、天を指差し尋ねた自分。

「太陽が獅子座の方角にあるんだから、夜に見えるかよ…」と、呆れた声で言われた。



「『知ってる星座を言ってみろ』って言うから、『蠍座とオリオン座』と答えると、アイオリア様ったら、みるみる機嫌が悪くなって…。

 あの後、慌ててガランさんに教わって獅子座を覚えたんですよ!」

「え…そうだった……か?」

「そうですよぉ!あの頃のアイオリア様は喜怒哀楽が激しくて、私…」

「ストップ!ストーップ!!」


昔の黒歴史を並べ立てられてはかなわない。自分が振った話題なのだが、アイオリアは焦って止めに入った。




「…それは、多分………嫉妬してた…んだと思う…… ///」

「え? ///」

「あの頃ミロは、何かと俺に突っかかってきてただろう?
 なのに自分の従者が、あいつの星座しか知らないなんて、
 宮主として、その…“立つ瀬が無い”と言うか……」

「あ…!ご、ごめんなさい。言い過ぎました…」


“いや、実際に色々やらかしてたから…”と、照れ笑いで応えるアイオリア。しかし確かに宮主としてのプライドが高かったことを、エアは覚えている。

口では何だかんだ言いながらも、従者達を必ず守護してくれていた。それを行動で示してくれたからこそ、“主”としても尊敬し愛したのだろう。








「今度は獅子座が見える季節に、エアに見つけてもらいたいな」


ややあってアイオリアが口を開いた。それを受けて、エアが自信満々に応える。


「私、今も見つけられますよ。

 地上にも、輝く黄金の獅子がいるんだものv 」



例え天駆ける獅子が、地平線の下に隠れていようとも…




作成日:130816



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