>LIONTARI ILION >>誕生日の贈物 3 夕食の片付けを終え、やるべき事を済ませると、プレゼントの袋を抱えたエアはアイオリアに言われた通り調理場を訪れた。ガランは既にそこに居て、人数分の温かい飲み物を用意してくれていた。真夏とは言え、十二宮に吹く夜風は冷たい。 「早速プレゼントを使わせて頂いてるよ。」 そう言ってカップを見せると、嬉しそうに微笑んだ。 「おっ!用意出来たかー?」 「はいここに。」 トレーニング場から直行してきたらしいアイオリアは、ほんのりと上気した顔をしている。昼間外出していて出来なかった分を、夜に済ませるつもりなのだろう。そしてその手には、テーピング用の白布が握られていた。 エアからクナの粉を受け取ると、それを深めの皿に入れ、レモン汁とオリーブオイル、それと少量の水を足してスプーンでよく捏ねた。 「本当は細めの棒で模様を描いていくらしいんだけど、オレには無理だしな。代わりに模様をくり抜いたシート付のセットにしたんだ。」 黒いシートはその為のものらしい。 「柄もちゃんと選んだんだぜ。…と、出来た!手ぇ… ///」 イキナリ頬を染めて言葉に詰まるアイオリア。 「こ、これは染めるのに必要なんだからなっ!手出せ!!///」 目の前で真っ赤になって命令するものだから、つられてエアも意識してしまう。 「は、ハイ。///」 差し出された左手の甲から肘にかけてシートを巻く。手を軽く握りつつ、腕が浮くように支えてクナを塗っていく。 「役得ですね。」 突っ込みを入れるガランを「きっ!!」と睨む獅子。しかしこれは自分で言い出したこと。従者に怒りをぶつけても始まらない。 一通り塗り終わると、持って来た白布でキツくテーピングする。右手も同じ様に済ませて一段落。と思いきや… 「あのぉ〜アイオリア様、更に大きめのシートがまだ2枚あるんですけど。これってもしかして…。」 「………足用だ。」 またさっきと同じ手順を繰り返す。しかし手の時よりもっと「イケナイコト」をしているようで、アイオリアはエアの顔をまっすぐに見られなくなっていた。 『何も今晩中に足まで塗らなくても、明日になればエア自身で染められるだろうに。』 側で見ているガランはそう思ったのだが、敢えて口には出さなかった。主人の頭には、そんな事はてんで浮かんで来ないようだったから。 両足のテーピングまで済ませた頃には、獅子は“真っ白”になりつつあった。 「どうも有り難うございました!道具は明日片付けますから、そのまま置いといて下さい。それでは私、部屋へ戻りますね。おやすみなさい。」 両手両足を白布で巻かれたミイラもどきのエアが、ぺこりと頭を下げて挨拶する。 「あ"…!」 「ま"た"な"に"か"〜?」憔悴しきった獅子が顔を上げる。 「サンダル履けなくなりました…;」 それまで成り行きを見守っていたガランが立ち上がる。 「片付けが済んだら部屋まで送るから。ちょっと待っててくれるかい、エア?」 「? 明日まとめて私やりますよ。それに大きめのサンダルでもあれば自分で歩けますから。」 「歩くと、せっかく巻いた布がズレてしまうだろう? 君を抱えて運ぶことくらい私には簡単だよ。」 「へ?」 「いいからガランは片付けでもしてろ!オレがやる!!///」 いきなりムキになって介入してきたアイオリア。かろうじて動くエアの手の指にサンダルの紐をひっかけて、抱き上げて運ぼうとするが、哀しいかなリーチが足らない。 「くっそー!お前の5倍はある重さの岩だって持ち上げられんのにぃ!!」 「私は石ころですか;」 「ひゃあ!?」 「わぁ!?」 岩と比べられていたエアを“ひょい"と持ち上げたガランは、地団駄踏む主人に彼女を背負わせた。 「これなら連れて行けるでしょう?ちゃんと部屋まで運んであげるんですよ。」 「………」 「………」 無言で動く二人の影。 「せっかくの誕生日なのにご免なさい。こんなことまでさせてしまって。」 「エアが謝ることじゃないだろ。元々オレが言い出したことなんだし。」 台詞自体はぶっきらぼうだが、口調は優しい。怒っている訳ではなさそうだ。 「ほら着いたぞ。」 部屋に入り、ベッドの端にエアを座らせる。 「じゃ、また明日な。」 「はい、有り難うございました。おやすみなさい。」 部屋の入口でアイオリアが振り返る。 「おやすみ。それと… 少しは部屋片付けろよ。ま、オレんとこも似たようなモンだけどな。」 慌ててエアは部屋を見回し赤くなる。 『よりによってこんな時に部屋の中を見られるなんて〜!!』 古文書館から借りてきた資料の翻訳をするのに、辞書やらノートやらを床に広げたままだったのだ。それにほんのちょっと着てたものを脱ぎ捨ててあったりもする。 「恥ずかしい〜///」 うつ伏せになり、枕を抱え込んで一人呟く。 「なんか身体が火照ったように熱いや…」 クナを塗った所はほんのりと温かくなるのだが、それ以外の場所も熱を帯びているように感じる理由が、彼女にはまだ分からなかった。 一方のアイオリアも同じ様な熱を感じていた。背中に残る温もりが身体中に伝わっていくようだ。触れていた肌の感触が蘇り、慌てて頭を振る。 「なんかガランに一本取られた気がすんだよな…。」 相手への感謝の気持ちから選んだ“誕生日の贈り物”。やがてそれが二人の間に微妙な変化を生み出そうとしていた。 作成日:050816 拍手頂けると嬉しいです お返事はGuest bookにて!
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