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正史


雷火と炎熱の炎が渦巻く戦場に、小宇宙で作られた鎖が割り込む。
と、同時に鋭い叫びが上がった。

「兄さん、止めて!!」

一輝の動きが刹那遅れた様に見えた。
そこをすかさず突かない己の甘さに自嘲の念が湧きあがる。


「何で二人が争うの!?」

水を差された表情をして聖衣を外すと、
そのまま振り返りもせず立ち去るこの時代の獅子座。
では此方も、この弟君に免じて矛を収めるとしよう。

ホッとした顔つきになったものの、
二手に別れたどちらを問い詰めるか逡巡している彼に言う。

「一輝を追うがいい、瞬」


更に複雑な表情を浮かべたのものの

「星矢、アイオリアからちゃんと理由を聞いておいてよ!」

と、すかさず釘を刺してから兄を追って行った。
あの頃から随分と時が立っていると、また実感させられる。



「は〜 もうどうなる事かと冷や冷やしたぜー!」

心底安心したのか、全力で息を吐いた星矢がしみじみと言う。
恨めしそうにコクトー達を振り返り

「サガは全然止める気無いしさあ〜」



星矢と同じ方向を見上げる。
ああ、お前達も兄弟だったな。
双子ゆえ、俺達とは随分と異なった関係だったが。

先程の接触のせいか?
この時代に来て得た記憶に、ロスト世界のそれも加わってきている。

俺と同じ、大神の依り代となった瞬。
己を省みず、その彼を遺すことを選んだ一輝達。


彼等の悲劇が念頭にあったからだと思う。
自分が依り代にされた時に咄嗟に浮かんだ対抗策は。
だがその選択が、他の次元をも巻き込む脅威を生み出してしまった。

あの世界の自分は兄を信じていた。
そしてこの世界の兄もきっと、弟の俺を信じて逝ったのだろう。

何処で選択を誤ったのか?
聖闘士の武器使用は、
更に間違った方向に進むキッカケとなっていないだろうか?


「俺は女神の神託に従うと決めた。だが武器使用許可は看過出来ない。
 このままお前に付いて行って、女神に進言する」

取り敢えず実力行使には出ない宣言を聞いて、
星矢がホッとした顔になる。

「俺もまだ全てを聞かされてる訳じゃないけどさ、
 沙織さん…女神が考えに考えた結論なんだと思うぜ」
「…神も過ちを犯すんだよ、星矢」

ロスト世界の女神の決断を思い浮かべながら、また同じ言葉を伝える。



「もう!小さい頃から頑固だな、アイオリアは!!

 あれ?記憶が有るんだから大人になってからなのか???」

自分より、ずっと幼い姿の俺の前で
頭を抱えている“後輩”を促し神宮を後にする。

この世界の兄弟達のように星矢、
お前と酒を酌み交わせないこの身体が、少しだけ恨めしいよ。



作成日:180816



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