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>>少年の日に





少年の日に


富士樹海。
常人の目には捉えられない何かが、二名の人の姿に変わる。


「アイオリア、そろそろ小休止するぞ」
「いや、俺はまだ一人でも続ける!」
そう断る少年を、最初に声を掛けた青年が実力行使で止める。

「駄目だ。自分を追い込むばかりでは突破口は開けないぞ」
「…。」

二人の記憶は同じ二十歳過ぎまで有る。
しかし少年の姿で時を超えたアイオリアと異なり、ミロは嘆きの壁を経験した頃の肉体で現代に現れた。
幾ら実力差は無い黄金聖闘士同士とは言え、手足のリーチの差は如何ともし難く。

これはあくまでも修行の一環であり、またガランからも以前同じ注意を受けた事を思い出し、ミロの拘束から抜け出そうという動きは数秒で止まった。


少し不貞腐れた表情で水分を摂る獅子を目にしていると、ミロの頭に、ふとある記憶が蘇った。

「お前と俺とで、修行みたいな事をしたよな?子どもの頃に。
 あれは…聖域でではないな。お前、もっとチビだったし」

「チビ」と言われて、更にブスっとした顔でアイオリアが答える。
「聖闘士になる前、
 …ミロス島で」


「あ!そうだそうだ。
 俺の師匠に、お前達が挨拶に来た時だ。
 同い年の聖闘士候補同士だと紹介されたんだった!」

あの頃の兄を想い獅子の表情が微かに乱れたが、気取られる前に自分を抑えた。

「それにしても、よく覚えてるなぁ!」
素直に感心しているミロに対し、
「海で火傷するなんて初めてだったし…」
とアイオリア。

「あ…;;;」


milos1


あれは二人が5、6歳の頃の盛夏。
師匠同士の話が有るからと、弟子二人で組手をさせられてた。それ以外に、今日の修行メニューをこなせば遊びに行って良いと言われ、俄然張り切りだしたのだった。

この年頃の少年達は遊びですら全力で、良い運動になる。ましてや、お互い聖闘士候補生。それを見越しての「遊び」許可だった。


自分のテリトリーであるミロス島を縦横無尽に駆け回るミロに対し、初めての土地にも関わらず、よく追いついていくアイオリア。
全メニューをこなし終えた頃には陽も高く昇り、絶好の海水浴日和となっていた。


泳ぐにしても、普通のビーチではつまらない。船でしか行けないカラモスビーチへ行く事を思いついたミロ少年。

「なあ、海で泳ごうぜ!
オレ達にしか行けない所でさっ!」


milos2


一応、周囲に人が居ない事を確認してから、泳ぐ格好で絶壁を思いっきり駆け下りた。

「「ひゃっほぉー!!\(^o^)/」」


最初は「あれ?熱いな」と感じただけだったが、一歩、また一歩進む度に、耐えられない熱さになっていった。まるで熱せられたフライパンの上に乗ってるかの様に。

「「あぢー!あぢぃー!!あぢいいぃ!!!」」

この熱さから解放されるには、もう思いっきりジャンプして海に飛び込むしかない。同時にそう悟った二人は、知らない人が見たら目を疑う様な距離を飛んで難を逃れた。



「足の裏痛い…」
プカプカ浮かびながら、ちびアイオリアが不満げに口を開いた。

「フンッ!この程度の熱さにも耐えられないのか?」
偉そうに反論するミロのソレも、同じく真っ赤になっている。

これですっかり泳ぐ気を削がれた少年達は、只々無言でプカプカ漂って過ごしていた。


「戻らなきゃ」
どちらともなく、砂浜に上がる。先程火傷した部分がヒリヒリ痛む。海水で湿っている部分はまだよい。そこから先、日光をたっぷり浴びた砂や岩はかなりの高温だ。

海岸線から崖を登りきるまで、聖闘士候補生の足でも数歩は必要か。修行中に数々の怪我は経験しているが、火傷はそうそう有るものでは無く。

いつもとは異なる痛みに涙目になりながら、幼いながらもプライドで耐え切り、師匠達の元へと戻ったのだった。





「ミロス島ってのは、鉱物資源が豊かな所でさ。
 あの場所は特に、熱を溜めやすい金属成分が多い場所だったのかもなぁ〜」

足の裏のヒリヒリに耐えながら過ごした、その後の数日間。懲り懲りとした口調でミロが言う。

「何も同じルートで戻んないで、少し泳いで別の場所から帰れば良かったんだよなぁ〜」
その発想は、当時の二人には浮かばなかったのだった。

と、アイオリアが吹き出した。ミロの問う視線を受けて答える。
「ああ。お前の言う通り、思い込みは良くないな」



地上の平和を乱すものと戦う。
あの頃は、それが目的で修行していた。

だが今は「兄」を止めるという、自分に課せられた責務を負ったから。



作成日:160816
改訂日:170703



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