>LIONTARI ILION >>ずるい貴方(ひと) 3 気がつけば、太陽は中天近くに達していた。 「あ、いけない!私までつられて寝ちゃった…。アイオリア様、起きて下さい。」 すっかり熟睡している体の主人に声をかける。しかし“ぴくり”とも動かない。 「ア〜イ〜オ〜リ〜ア〜さ〜ま〜ってばぁ〜」 身体を揺すってみても、“ぺちぺち”と軽く額を叩いても“むにぃ〜”と柔らかく頬を引っ張っても反応無し。 「またこのパターンですか…。」 『ガランさんご免なさい。昼食の用意に間に合いそうもありません…』 獅子宮の方角に向かって手を合わせ、改めてひざの上で無心に眠る獅子の顔を見る。 アイオリアは、これ迄に好きになった人とは違い感情の起伏が激しくて、何より子供っぽい。それでいて、人を惹き付けてやまない、とびっきりの輝きを持っている。 「どうして好きになっちゃったのかなぁ…」 口にした言葉とは裏腹に、愛おしい者を見る眼差しで、今は赤く染めている髪を優しく梳く。繰り返し繰り返し。 ふと、彼女の頭の中に昔読んだ童話の一説が浮かんだ。 『眠り姫を目覚めさせたのは、王子様のキスだったのです。』 「この場合、物語とは反対だよね。」 苦笑いしながらも、いつもとは違い“相手が眠っている”からか、自然に身体が動いていた。ほんのり頬を染めながら上半身を傾け、アイオリアの耳元で囁く。 「目を覚まして下さい、王子様。」そうして彼の唇に触れるか触れないかのキスをした。「もうすぐお昼ご飯ですよ。」 「(ぱちり)」 「///!!起きてらしたんですかーっ。」 「エアがオレを呼ぶ声がした。」 「あーっ!やっぱり目覚ましてたんだぁ///」 「んで、姫のキスで目が覚めた。」 そう言うと、ちょっと照れたようなはにかんだ笑いを浮かべ、一気に身を起こした。 この笑顔がくせ者なのだ。目の前でこんな顔をされたら、怒りたくても怒れないではないか…! 『ずるいずるいずるいずるいずるいずるい…』 真っ赤になって、同じ言葉を心で繰り返すエア。しかし長い時間膝枕を続けていたために足が痺れてしまい、ソッポを向くことしか出来ない。 「さ、戻るとすっか。」 そんな彼女の抗議を知ってか知らずか、再び抱きかかえると朝来たルートを逆に辿る。 「ひゃあ〜!!」 この崖を下るのは、登ってくるより遥かにスリリングで。「ずるい」を連発した相手に“ぎゅう”としがみついてしまうのだった。 崖を下りきり、そのまま獅子宮に向かおうとするアイオリアの腕の中でエアが暴れ出す。 「下りますー下ろして〜 自分で歩きますー!」 仕方なく彼女を地に下ろすも、まだ足の痺れが抜けていなくて上手く立つことも出来ない。 「何強がってんだよ、オレが運んだ方がずっと早いって。」 『強がってるんじゃなくて、寝たフリしてた貴方に怒ってるんです〜』 抗議の言葉を笑顔に封じられ、おまけにまだ歩くこともままらない自分が情けなくて恥ずかしくて。そのまま膝に顔を埋めて座り込んでしまった。 「仕方ねーなー…」 相手が何故こんなに意固地になったのか、よく分かっていないアイオリアは、ため息をひとつ。そして彼女の気が済むまでつき合うことにした。 「…座らないんですか?」 やっと落ち着きを取り戻したエアが顔を上げ、立ったままの主人に尋ねる。 「お前なぁ〜; こんなところに居たら、のぼせちまうだろーが!」 「あっ…」 辺りを見渡せば、日射しを遮るものなど無い道のド真ん中に座り込んでいた。それで日陰を作るために側に立っていてくれたのか。せっかく退いた顔の火照りが、また戻って来る。 「さ、行くぜ。」 荷物を肩にかけアイオリアが歩き出す。数歩進んで振り返り、からかう様な口調で言う。 「何ならオレがまた運んでやっても…んぉっ?!///」 背中にエアがぴったりと張りついていた。 「な、なんだぁー?」 予想外の展開に慌てる獅子。 「アイオリア様はずるい…。寝たフリなんかして。」 「あ"〜?寝たフリじゃねーよ、ホントに寝てたんだって!」 「あんなタイミング良く目覚めるなんて変です…。」 「そりゃおめぇ………もぎょもぎょ」 「文句も言えないです。あんな笑い方されたら…優しくされたら…。」 「エア…?」 アイオリアの身体の前に回した手が、シャツ越しにチェーンへ触れる。 『アイオロス様、あなたの弟さんはこんなにも…』 作成日:050828 拍手頂けると嬉しいです お返事はGuest bookにて!
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