>LIONTARI ILION >>誕生日の贈物 2 アイオリアの提案で、この日の夕飯は外で食べることになった。夏至の日からふた月近く経つとは言え、まだまだ日が長い。20時過ぎでも灯りは不要なほどだ。 「「アイオリア様、お誕生日おめでとうございます。」」 「おう!」 従者たちのお祝いの言葉に応える宮主。目の前に山と積まれたごちそうに目を輝かせ 「こんなに好きなモノばっか食べられンなら、毎日が誕生日だといいなぁ〜」と、幸せそうにスブラキをほお張る。 苦笑いしながら筆頭従者は言う。 「こんな偏った食生活を続けていたら身体を壊しますよ。」 「分かってるよぉ。もう、ガランは頭が固いんだから!」 そう文句を言いながら、ふと大人びた表情で自分に言い聞かせるように言葉を紡いだ。 「1年に1回だから特別な日なんだよな。………そしてオレは、もうすぐ兄貴の歳に追い付く。」 「アイオロスを凌ぐ立派な聖闘士にお成り下さい、アイオリア様。」 「ああ、必ず。」 瞳に決意を宿した獅子はそう宣言した。 「そのためには、沢山食べて大きくなって下さいね!」 そう言ってエアは、ムサカを盛ったお皿をアイオリアの方へ差し出す。 「何だよそれ?オレそんなに小さくないぞー!」 抗議をしながらも差し出された料理に舌鼓を打つ。 育ち盛りの主役の食欲の前に、ごちそうの山は殆ど片付けられてしまうのだった。 デザートを食べている時、おもむろに席を立ったアイオリアは、後ろの石壁の陰に置いてあった物をテーブルまで運んで来た。その行動を不思議そうに見つめていた従者たちの前に、それぞれ紙袋を置く。 「今日はアリガトな。これ、オレからのプレゼント。」 「私共にですか?」 「だって、今日はアイオリア様の誕生日なのに…」 「ん。こうやって誕生日を迎えられるのも、祝ってもらえるのも、二人がいてくれたおかげだから………バカっ!恥ずかしいこと言わせるな、いいから受け取れ〜!!」 真っ赤な顔を隠すため、怒ったフリをするアイオリア。 従者たちは、それぞれの目の前におかれた袋を手にする。 「ここで開けても宜しいですか?」 「ああ。 ………ガランお前、最近一緒にお茶飲まねえのな。」 そのさり気ない言葉の意味と紙袋の中身に気がついた時、常に沈着冷静な彼の表情に動揺が走った。 「こ、これは…。気がついていらっしゃったのですか?」 こんな困った顔のガランは滅多に見られるものではない。 「勿論さ。」 『本当はつまみ食いしようと調理場に潜り込んだ時に偶然見つけたんだけどな…』という台詞は口には出さない。 「申し訳ありません。不注意でカップを割ってしまいまして。以前、アイオリア様から頂いたものだったので申し上げられずにおりました。」 「形あるものはいつかは壊れるんだから、気にすんなよ。それと割っちまったカップはさっさと捨てろ。」 「はい、大事に使わせて頂きます。」 いつもはガランに頭が上がらないアイオリアだが、一本取ったことで上機嫌である。 「あの〜これ何ですか?」 黄緑の粉が入った袋と、黒い模様の描かれたシートを持ち上げエアが尋ねる。 「あ、それクナ染めセットだよ。」 「クナ???」 「毛や皮膚を染めるのに広く使われてるんだって。清浄に保つ効果もあるって言うから、巨蟹宮や処女宮の側通る時も安全だと思ってさ。」 「デスマスク様の宮はともかく、シャカ様の宮も亡者の館ですか…;」 「最初は化粧品を探してたんだ。でも民政に移行してから暫く経つってぇのに品薄で。輸入品は色も匂いもケバケバしくてさ、エアのイメージに合わないんだよ。代わりに、これを教えてもらった。」 「…随分と前から用意されてたんですね。有り難うございます。とっても嬉しいです。」 『うううっ…アイオリア様立派になって…』と、感動しきりのエア。 「だあー!まだ続きがあるから聞けよ!やり方も教わってきたから、今夜染めてやるよ。色づくまで時間がかかるから、仕事は全部済ませて、あとは寝るだけの状態にして来いよな。場所は…調理場がいいか。ガラン、レモン汁とオリーブオイルを用意しといてくれ。」 「かしこまりました。」 「レモン汁にオリーブオイル?」 「水で捏ねただけだと染まりにくいだってさ。」 「ふうむ???」 かなり未知の世界である。 作成日:050816
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